【読書録】ルールは自由になるためにある-『社会学入門-人間と社会の未来』見田宗介-
これまで、社会学者見田宗介さんの『社会学入門-人間と社会の未来』を何度かに渡ってまとめてきました。
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今回はその最後。見田宗介さんが『社会学入門-人間と社会の未来』で提示する、あるべき社会の構想、<交響するコミューン・の・自由な連合>についてまとめます。
ざっくりまとめると
・われわれの生にとって<至高なもの>と他者にとっての<至高なもの>の解き放ちをどちらも可能にするような関係の形式=<交響するコミューン・の・自由な連合>
⇒つまり、他者は個人にとって歓びのみなもとであり、困難のみなもとでもあることを前提として、自分と他者の自由を損なず、それぞれの歓びを可能にする関係の形式を構築すること、交響を強いてはならない他者たちの、相互の共存のための形式を構築することが必要。
・その構想としての<交響するコミューン・の・自由な連合>を、この章で見田さんは提示している。
われわれの生きる社会の2つの構想
(1)関係のユートピア(交響するコミューン)
・異質な個々人が自由に交響(共にかかわり合う)する空間。個々人の自由の優先のうえに立つ交響だけが望ましい(181頁)
・「歓びと感動に充ちた生のあり方、関係のあり方を追求し、現実の内に実現することをめざす」(172頁)
←他者は人間にとって、あらゆる歓びの源泉であることに照応
・個々人が自由に選択・脱退・移行・創出するコミューンたち(182頁)
・交響圏の相互の関係の協定としてのルールによってはじめて現実に保証される(182頁)
・交響するコミューンは家族であることが多いが、単独者でもありうるし、地球の裏側に住むひとりの友人が交響するコミューン内の相手でありうる(190-192頁)
(2)関係のルール
・「人間が相互に他者として生きるということの現実から来る不安や抑圧を、最小のものに止めるルールを明確にしてゆこうとする」(198頁)
←他者は人間にとって、生きることの困難と制約の形態の源泉であることに照応
・関係のユートピアたちの自由を保障する方法としてのみ、関係のルールは構築されるべきもの(182頁)
2つの社会構想の構成
・2つの社会構想は、その圏域を異にしている(176-177頁)
関係のユートピア:圏域は限定的(1人〜数十人)
関係のルール:圏域は社会の全体
⇒関係のユートピアの外部に、関係のルールが存在する
・関係のユートピアは、相互にその生き方の自由を尊重し侵さないための協定(契約関係)を結び、ルールを明確化する(178頁)
⇒「<交響するコミューン・の・自由な連合>」(183頁)
・万人が共にルールを作るものであるのが<自由な社会>
(画像引用:見田宗介『社会学入門-人間と社会の未来』191頁)
気づいたこと
”社会のルールは、ひとびとの自由を尊重するためのもの”ということが、ぼくがこの本から学んだ一番大きなことでした。でもいまの社会では、そのルールがあまりにも、権力がある人たちやマジョリティの自由のみを尊重する方向にはたらいているようにも思います。
ルールは、おたがいが自由になるためにも使えれば、既得権益を守るためにも使えるのです。
このブログのテーマに引きつけていえば、「働く」という領域でも、たとえば女性や障がいを持つ人などが自由に働けるためのルールがじゅうぶんに存在しているとは言えないでしょう。
実際問題として、日本の雇用環境のなかでどのようにして見田さんの提示する<交響するコミューン・の・自由な連合>を実現するのか。女性も男性も、正規も非正規も障がい者も健常者も若者も高齢者も、それぞれがそれぞれらしく働くことができる社会をどのように生み出していくのか。
おおまかな方向性としては、ルールづくりにそれぞれの異なる意見を持つ集まり(女性とか障がい者とか高齢者とか)も参加する仕組みをつくることが大事なのではないでしょうか。
たとえば下の記事でも問題提起されているように、非正規社員の声を労組の運動に反映するしくみなどが求められるでしょう。
”それぞれの主体の意見を、はたらくルールづくりに反映するしくみ”については、今後その事例を集めて、いずれまとめたいと思います。