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働きかたを編集する

働きかた編集者 山中康司の備忘録

【読書録】21世紀に生きる僕らは、なぜ働くのか?ー『WORK SHIFT』リンダ・グラットン著 池村千秋訳ー

働き方が変わりつつある。

 

それは今、政府が進めている働き方改革に象徴されるけども、なにも日本に限ったことじゃない。グローバル化、ICTの発達、人口構成の変化などにより、世界的な流れになっているのだ。

 

リンダ・グラットンの『WORK・SHIFT』は、そうした世界的な流れがなぜ起こっているのか、どのような結果に行き着くのか、また個人はどのように振る舞えばいいのかなどをまとめた一冊。

 

今日はこの話題作から、特に大事な「ライフスタイルのシフト」に焦点を当てて考えてようと思う。

 

働くのは、充実した経験をするためだ

 

「なぜ僕たちは働くのか」。この問いに対する答えは、これまで「お金を稼ぐため」という答えが主流だった。働いて、お金を稼いで、たくさん消費をするー。これが、人々が幸せになるための方程式のようなものだったのだ。

 

しかしリンダ・グラットンは、こうした幸せの方程式が変える必要があると指摘する。

「大量消費を志向するライフスタイルから、意義と経験を重んじるバランスのとれたライフスタイルへの<シフト>」(68頁)を実現しようという。

 

その背景には、お金を稼ぐことが必ずしも幸福につながらないことがわかってきた、ということがある。収入が増えるほど、贅沢なライフスタイルに慣れてしまって、多少のことでは幸せを感じなくなるという、経済学でいう「限界効用の逓減」がうまれる。

 

こうした難しい言葉は知らなくとも、お金を稼ぐことを目指してがむしゃらに働いてきた上の世代の人生を見ていて、「お金を稼ぐことが必ずしも幸福につながらない」ということを感覚として身につけている世代が労働者の多くを占めるようになってきている。

 

また、テクノロジーの変化に伴い、人々が本人の望み通り行動するチャンスが生まれ始めている。

 

これらのことから、「お金を稼ぐためでなく、充実した経験をするために働く」という価値観が広がっていく、とリンダ・グラットンは言っているのだ。

 

 

自己概念の発達が不可欠

 

実際に、新入社員の働く目的を調べた調査では、2000年以降、「楽しい生活をしたい」とする者の割合が大きく上昇し、逆に「経済的に豊かな生活を送りたい」とする者の割合は低下傾向になっている。「働くことに関する最近の若者の意識は、経済的な側面よりも、自分自身が『楽しく』生活できるかどうかという点を重視していることが分かる。」と調査では述べられている。

(参考:「平成25年版 厚生労働白書」

 

ただ、この「充実した経験をする」「楽しい生活をする」というのは、簡単なことではない。充実すること、楽しいことは一人ひとり異なるからだ。「お金を稼ぐためでなく、充実した経験をするために働く」時代が訪れるということは、一人ひとりが「自分にとって、なにが充実した経験なのか」ということを自覚しておく必要があるようになるということだ。

 

そのうえでとても重要になるのが、「自己概念の発達」ということ。

 

「自己概念」とは、自分で自分のことを捉えたイメージのこと。つまり「自分は何者であるか」というイメージだ。

 

米国のキャリア研究家であるドナルド・E・スーパーは、キャリアディベロップメント(職業的発達)において最も重要な要素はこの自己概念であるとし、個人は職業選択を通じて自分の「職業的自己概念」を実現しようとする、とした。

 

「職業的自己概念」は、「自分はなにが得意か」「なにがしたいか」「なにに意義を感じるか」といった、仕事に関する自己概念のこと。この職業的自己概念が肯定的・明確である時、個人は正しい職業選択を行うことができ、否定的・不明確である時、誤った職業選択をしてしまう、という。

 

リンダ・グラットンのいうように、「お金を稼ぐためでなく、充実した経験をするために働く」ためには、この職業的自己概念を肯定的かつ明確にしておく必要があるのだ。

 

これが意外とむずかしい。自分のことは自分が一番知っているようで、実は知らないこともたくさんあったりする。

 

そのため、キャリアコンサルタントに相談することであったり、リンダ・グラットンも指摘するように信頼できるコミュニティに所属し、自分の悩みなどをさらけ出してフィードバックをもらう、といったことが必要になるはずだ。

 

そうした場や機会は、あまりない、もしくはあるけれど知られていないように思う。どうやって、誰もがはたらくということについて考え、語り合える場を作っていくのか。例えば、以前話題になった弁護士バーのように、キャリアコンサルタントバーテンダーになるバーがあっても面白いかもしれない。

 

とにかく、キャリアについて考える機会をもっと身近にしていきたいと思っている。