働きかたを編集する

働きかた編集者 山中康司の備忘録

”分断を生むキャリア”から”つながりを生むキャリア”へ-『持続可能な資本主義』新井和宏-

以前、社会学見田宗介さんの著書『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書) 』についてのエントリーのなかで、「今のお金中心・効率中心の社会を、環境や他者を損なわない社会にできるというのは、まだ実感が沸いてない」、といったことを書いた。

 

kjymnk.hatenablog.com

 

理屈としてはわかるのだけれど、実際に自分たちがどのように働いていけばいいのか。どのように消費をしていけばいいのか。そういった行動のレベルまで、見田宗介さんの理論を落とし込めるイメージが湧いていなかったのだ。

 

だけど、鎌倉投信の取締役である新井和宏さんの著書『持続可能な資本主義』を読んでみて、「こういう考え方で働いたり、消費をしたりしていけばいいのか!」と目の前が開ける思いがしたので、大事だと思ったポイントをちょこっとまとめてみたうえで、このブログのテーマである「キャリア」に引きつけて考えてみようと思います。

 

資本主義の息切れ

 

「いま世界中で資本主義が息切れをしている」

 

そう新井さんは指摘する。先進国がこぞってデフレと低成長に見舞われているのだ。その背景には、リーマンショックが提示した「利益の追求だけを目的として効率至上主義の限界」が解明されていないことがあるという。

 

「利益の追求だけを目的として効率至上主義」の根本的な問題は、効率よく稼げるかが一番の目標になること。言い換えれば「リターン=お金」になっていることだ。現在は多くの企業や国、個人が、ストックとしての資産ではなく”短期的なフローとしての利益(お金)”の最大化を目指しているという。

 

だが、お金を求める欲望にはきりがないので、精神的な満足や幸福に至ることなく短期的にお金を生むことが目的になってしまい、人と人や企業と地域など関係性といったストックとしての「見えざる資産」の分断を生んでしまう。そういった「人と社会を犠牲にする資本主義に永続性はない」と、新井さんは喝破する。

  

つながりを生む資本主義

 

新井さんが鎌倉投信でやろうとしていることは、「リターン=お金」という式を書き換えることで、利益の追求だけを目的として効率至上主義に変わるシステムを、金融を通じて作ることだ。

 

鎌倉投信が考えるリターン」は、お金だけではない。

リターン=社会の形成×資産の形成×心の形成=幸せ」

という方程式で捉えているという。

 

ある企業に投資をするときに、お金だけではなく社会的な意義や幸福感も含めて得られると捉えよう、というのだ。

(現在の資本主義が”分断を生む資本主義”だとすれば、こうした考え方にもとづく資本主義は、”つながりを生む資本主義”だと僕は思う。)

 

つながりを生む”新日本的経営”

 

また、効率至上主義へのオルタナティブとして、新井さんは”新日本的経営”をしている会社に注目しているという。”新日本的経営”とは、効率を追い求める欧米的経営ではなく、見えざる資産や社会性にも配慮する日本的経営をさらに発展させた経営だ。

 

その特徴のなかでも、近江商人の哲学「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」を発展させた”八方よし”という項目が面白い。

 

新井さんが提示する”八方よし”は、次の8つのステークホルダーが共通のゴールを持ち、会社のファンになっているような経営だ。

 

  • 社員
  • 取引先・債権者
  • 地域
  • 顧客
  • 株主
  • 社会
  • 経営者

 

短期的な効率を求める欧米的経営では、こうしたステークホルダー同士は相反する利益を持つから、ときにそれぞれが対立し合い、分断を生んできた。

だが、”八方よし”の新日本的経営では、どのステークホルダーも付加価値を分配する対象=ファンとして、同じ目標を持つ存在になる。企業活動が生み出すのは分断ではなく、”つながり”になるのだ。

  

”八方よし”の経営は、絵空事ではない。本著では実際に”八方よし”を体現している”いい会社”がいくつも紹介されている。

 

急な成長をよしとしない「年輪経営」で成長を続ける伊那食品工業、途上国で作られる製品を高品質で販売し顧客に愛され続けるマザーハウス、震災後に政府をも動かして復興を支えたヤマトグループ……。

 

こうした会社が実際に存在し、そこにファンがつくことで成長を遂げているという。「いい会社」だけに投資する鎌倉投信の「結い2101」が、「R&Iファンド対象2013」で投資信託・国内株式部門1位になるなど実績を上げていることからも、”八方よし”を目指している会社が共感を生み、投資や消費によってそうした会社を下支えする流れが着実に生まれているんじゃないだろうか。

 

”分断を生むキャリア”から”つながりを生むキャリア”へ

 

ここからは、このブログのテーマである「キャリア」に引きつけて考えてみよう。

 

効率至上主義の弊害は、個人のキャリアに強く及んでいるように思う。働く人の幸福よりも、株主の利益や顧客の満足度が優先され、短期的な利益を上げるために働くことが求められるなかで、心身を蝕まれてしまう人も多いのが現状だ。

効率至上主義が個人の実存を蝕んでいくありさまは、無差別殺人を犯した19歳の青年N・Nを題材に見田宗介さんがまとめた『まなざしの地獄』で詳しく取り上げられています。題材は60-70年代の日本だけど、基本的な構造は今と変わっていないはず。

 

新井さんは本著のなかで、金融の文脈から、効率至上主義の資本主義に対するオルタナティブを示した。具体的には、「リターン=お金」に替わるリターン=社会の形成×資産の形成×心の形成=幸せ」という方程式や、「八方よし」の考え方などを提示した。これらは、”分断を生む資本主義”から、”つながりを生む資本主義”へのシフトにつながるものなんじゃないかと僕は考える。

 

これらは、個人のキャリアデザインの文脈にも応用できるんじゃないか。

 

つまり、キャリアの選択のときに「リターン=お金」がだけを判断基準に仕事を選ぶのではなく、仕事にどんな意義があるのか、どんな満足感を得られるのか、そしてどれだけお金を選べるのか--という3つをふまえて選んでみる。あるいは会社選びのときに、その会社が”八方よし”の経営をしているかを基準に選んでみる。

 

特に「心の形成=満足感」のリターンが得られるのかは、四季報や求人サイトを見てもなかなかわからないし、新井さんがいうようにROEやPLといった数値ではなく、そこで働く社員の表情や職場の雰囲気といった主観的な要因がとても重要だから、その会社に知り合いがいれば話を聞いてみたり、可能であれば実際に仕事の現場を見させてもらうといいかもしれない。

 

また、新井さんが理事をつとめるNPOいい会社をふやしましょう」では、これからの日本に必要とされ、持続的で豊かな社会を醸成できる会社をピックアップして紹介しているので、こうした情報も会社選びの参考にしてみるのも手だ。

 

手前味噌だけれど、僕が関わっているNPO法人ETIC.が運営している求人サイトDRIVEキャリアでは、「思い」や「やりがい」を軸に求人を紹介しているので、こちらもチェックしてみるといいかも。

 

このようにしてキャリアに「リターン=幸せ」や「八方よし」の考え方を取り込むことで、働くほど他者や社会から分断されてしまうようなキャリアから、働くほどつながりを感じることができるようなキャリアへと、個人のキャリアもシフトさせていくことができるのではないかと思うのだ。

 

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 僕が働きかた編集者を名乗って、キャリアに関わる仕事をしていきたいと思うようになった背景に、「一人ひとりがもっと幸せに働けるようにできないか」という思いがある。

 

仕事を通して、自分であったり誰かであったり社会であったりを損なわないような働き方はできないのだろうかと考えるなかで、『持続可能な資本主義』は大きな気づきを与えてくれました。資本主義の仕組みやこれからの金融、働き方を考えるうえで超オススメの一冊です。