キャリアの物語をつむぐ

働きかた編集者 山中康司のブログ

ズボンのチャックあいてる人のための採用について

「俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさやつらさも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。」

 

村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』で、主人公の友である「鼠」が語ったこの一節。ずいぶん前に読んだのだけど、やけに頭にのこっている。それは、僕が人に惹かれるときに、強さよりもむしろ弱さに惹かれるタチだからかもしれない。

 

人の弱さって、なんていうか、愛おしいのだ。

 

エレベーターに乗り合わせた、ビシッとスーツでキメたサラリーマンのチャックが空いてて、水玉模様のパンツがのぞいてたりとか(この前ほんとにあったのだ)、電車で目の前に座る美女の口元にご飯つぶついてたりとか。そういう光景に出くわすと、思わずハグしたくなる。僕もよく抜けたことをやらかすので、「お前もかぁあああ!」って。

 

恋愛だって、カンペキな相手より、ちょっとダメなところがあって、人間くさい人と付き合いたい。カンペキだったら、相手にとって自分がいる意味ないもの。

 

それに、カンペキな人間なんていないのだ。「この相手がカンペキ!」って思ってたら、十中八九付き合ってから「こんなはずじゃなかった…」ってオチになるだろう。だとしたら、付き合う前にその人の弱い部分、ダメな部分をお互い知っておくことは、良い関係を築くためにすごく大事なことだ。「僕、たまにチャック開いてるけど、許してね」って。「ごめんなさい。私そういう人ムリなの。」ってなったら、しょうがない。

 

…まぁ「付き合う前にお互いのダメなとこも知っておきましょうよ」なんて、僕などがいうまでもなく「そらそうだわ」って、みんなも思うんじゃないか。

 

でも、こと「採用活動」となると、同じマッチングにもかかわらず「弱い部分、ダメな部分をお互い知っておく」ことがおろそかにされがちなのはなんでだろう。

 

ふつう、採用活動では、人が欲しい会社も働きたい個人も、弱みはそんなに見せない。どちらかといえば、強みを強調して自らをアピールするはずだ。会社であれば、「若くて経験つめる」「高収入」「福利厚生充実してる」、個人であれば「TOEIC900点」「MBA持ってる」「マネジメント経験有」とかかな。

 

でも今日、僕が関わっている「グリーンズ 求人」というプロジェクトのミーティングで、「採用でも弱みを見せていいんじゃないの?」って意見が出て、ハッとした。「弱みでマッチングする採用のあり方もあるんじゃないか」って。

 

たとえば、会社は「あんま給料高くないんですよ」「ぶっちゃけ残業多いんですよ」「実はワンマンで…」みたいなこと、個人は「ストレスに強くなくて」「英語を聞くとじんましんが出ちゃうんです」「対人恐怖症で…」みたいなことを、採用の段階で共有しておく。そしたら、相性をちゃんとみてから採用することができて、採用後に「こんなはずじゃなかった」とならずにすむはずだ。

 

弱みをさらけ出せないのは、会社も個人も、「さらけ出したら数あるライバルの中から選んでもらえないよ」と思うからなはず。でも、僕だったら弱みをさらけ出している会社や個人の方が、誠実で、一緒に働きたいなぁと思うけれど。もしかしたらさらけ出した方が、逆に人が集まったりして。

 

今はどの求人情報サービスを見ても、「強み」でサーチできるものばかりだ。逆に、「弱み」でサーチできる求人情報サービスがあっても面白いかもしれない。

 

「コミュ障歓迎」とか「朝寝坊推奨」とか「チャレンジ精神なくてよし」とか。そこは他のメンバーが補いますよー、だから自分のいいところを存分に発揮してちょうだいね!って会社が伝えられる。そんな求人情報サービスがあったら、仕事選びがちょっと人間くさいものになる。

 

僕は人間くさいのが好きなので、そんなサービスがあったら使ってみたい。そして、面接にはチャック全開でのぞむのだ。