キャリアの物語をつむぐ

働きかた編集者 山中康司のブログ

節目の時だけ、キャリアをデザインする-『働くひとのためのキャリア・デザイン』金井壽宏-

自分のキャリアをいつも考えているのは大変だ。

かといって、全く考えないと望んだ方向に進むことはできない。

僕たちはキャリアについて、いったいいつ、どのようなことを考えればいいんだろう。

 

そんな問いへの答えを与えてくれるのが、金井壽宏さんの著書『働くひとのためのキャリア・デザイン』である。

 

節目の時だけは、キャリアをデザインする

本著のメッセージをもっとも端的に言うとしたら、「節目の時だけは、キャリアをデザインする」ということになる。

 

現代は、一人ひとりが自らキャリアデザインをすることが求められている時代だ。

バウンダリーレス・キャリア(マイケル・アーサー)」「プロティアン・キャリア(ダグラス・T・ホール)」といった考え方であらわされているように、かつてのキャリアに比べて企業や職種などといった境界が不確かなものになり、キャリアの不確実性が増している。そうした状況の中で、自らキャリアの舵取りをしていかないと、自らが「これでよかった」と思えるキャリアは歩めないかもしれない。

 

ただ、著者も言うように、人生のあらゆる局面でキャリアについて考えていることは現実的ではない。あれやこれやと迷っている間に、人生の終盤に差し掛かっていた……という顛末はできれば避けたいものだ。

 

そこで著者が提唱しているのが、「キャリアデザインは、節目=トランジションにのみ行えばよい。それ以外は、ドリフトしてもいい」ということである。

 

だれのキャリアにも節目はある。著者はブリッジズ(トランジションは「終わり」→「中立圏」→「はじまり」の3ステップだとした)やニコルソン(トランジションの「準備」→「遭遇」→「順応」→「安定」というサイクルを明らかにした)のトランジション論を土台にしながら、トランジションでのキャリアデザインの意義と方法をまとめている。

 

不確実性が高まっている時代だからこそ、トランジション(結婚や就職、仕事が辛いと感じる時期や、逆にゆとりや楽しさを感じるようになった時期など)において自分の来し方行く末に思いを巡らせ、人生の方向性を決める。ただ、これも不確実性が高まっている時代だからこそ、一旦方向性を決めてその方向に歩み始めたら、時には偶然の出会いや出来事を受け入れながら歩みを進めていく。

 

クランボルツの「計画された偶発性理論」で示されているように、僕たちのキャリアは偶然の積み重ねによって築かれていることを考えれば、不確実性が高まった現代では偶然の出来事をどれだけ自分のキャリアに取り込めるがが重要なのだ。

 

節目=トランジションをどうすごすか

 

個人的な意見だけれど、今の日本ではトランジションを有効にすごす環境が十分に整っているとは言い難いんじゃないか。トランジションで必要なのは、自分自身と向き合う時間と空間、そして他人からのフィードバックだと思うが、それらを確保できる機会があまりなかったように思う。

 

たとえば北欧には、人生のどのタイミングでも入学可能な「フォルケホイスコーレ」という学校があり、講義や対話、日常生活を通して人生を見つけ直す機会を人々に提供している。

www.ifas-japan.com

 

 

こうした「フォルケホイスコーレ」にあたるような、トランジションを有効にすごすための機会は日本ではあるのだろうか。ちょっと調べてみたい。