キャリアの物語をつむぐ

働きかた編集者 山中康司のブログ

モモは世界一有名なキャリアカウンセラーかもしれない-『モモ』ミヒャエル・エンデ-

小さなモモにできたこと。それはほかでもありません。あいての話を聞くことでした。

『モモ』ミヒャエル・エンデ 

 

キャリアカウンセリングの勉強をはじめて1年ほどになる。

 

学べば学ぶほど、奥が深い。カウンセリングをするたびに発見ばかりだ。講師の先生いわく、「15年やってやっとつかめてきた」とのことなので、1年なんてまだ赤ちゃんみたいなものなんだろうな。

 

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勉強を始める前、「自分は聞き上手かもしれないだな」と思っていた。じっさいに「聞き上手だね」と言われることもあった。

 

でも今思うのは、「聞き上手」と「カウンセリングができる」は、まったく違うということ。たとえるなら、リフティングが上手にできるのと、じっさいに試合でゴールを決めることができること、くらい違う。

 

「聞き上手」は、聞き役にまわったり、あいての話に合わせてあいづちをうったりすることが得意ならなれるかもしれない。でも、「カウンセリングができる」というのは、それとはまったく違うスキルが必要だ。

 

くわしいことはここでは書かないけども、クライエントを観察し、要約やいいかえを織り交ぜ、感情や意味づけを引き出し、時には自分の中の矛盾との対決をうながし、云々…。そんなことを頭でぐるぐる考えつつ、でも目の前の相手に集中して話を聞く。(プロのカウンセラーは、1時間ほどのカウンセリングでも内容をほぼ覚えているというからすごい。)

 

そんなわけで、「俺って聞き上手だな〜」と調子に乗っていたかつての自分には、強烈な張り手を食らわせたい。

 

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ところで、世界で一番有名なキャリアカウンセラーは「モモ」じゃないかと思う。

 

この、ミヒャエル・エンデが書いた世界的ベストセラーの主人公がやっていたことは、まさにキャリアカウンセリングなのだ。

 

物語では、平和な街に突如現れた「時間貯蓄銀行(時間どろぼう)」と称する灰色の男たちによって、大人も子ども”時間”を盗まれて、自分らしく生き生きと過ごすことができなくなり、心から余裕がなくなってしまう。

 

そんなに時間どろぼうに立ち向かったモモができたことというのが、”話を聞くこと”だった。

 

なあんだ、そんなこと、とみなさんは言うでしょうね。話を聞くなんて、だれにだってできるじゃないかって。

でも、それはまちがいです。ほんとうに聞くことのできるひとは、めったにいないものです。

そしてこのてんでモモは、それこそほかにはれいのないすばらしい才能をもっていたのです。

(引用:『モモ』ミヒャエル・エンデ 岩波少年文庫 23頁)

 

「時間どろぼう」と対極にいるモモができることが、「話を聞くこと」だというのは、とても示唆的だ。いわば「時間どろぼう」が人びとから生き生きとした時間を奪うのに対して、モモは生き生きとした時間を与える。いや、与えるというとちょっと違うな。生き生きとした時間をとりもどすことに、そっと寄り添っているのだ。相手の話に、じっと耳を傾けることによって。

 

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今、僕たちのまわりを見ても、電通過労自殺が問題になったように、「時間どろぼう」に時間を奪われたような働き方をしている方は多い。

 

だからこそ、「聞き上手」だけではなくカウンセリングができる」キャリアカウンセラーという存在が、もっと身近になればいいのに、と思う。残念ながら、僕らが生きる世界にモモはいないけれど。

 

そんなわけで、僕は今日もキャリアカウンセリングを勉強する。